2026年7月 vol.296
2026年07月10日
西日本を中心に豪雨災害が報告されておりますが、現地の一日も早い復旧をお祈り致します。
さて、7月1日に国税庁は2026年の路線価を発表しました。これによると、全国約31万地点の標準宅地の平均が前年比プラス2.9%になったことが明らかになりました。上昇は5年連続で、特に東京の標準宅地の平均上昇率は前年比9.4%を記録し全国平均の3倍の数値を示しました。背景にあるのは、都心のビルの高稼働率とインバウンドによるホテルなどの観光需要の盛り上がりで、海外の投資マネーの流入が地価押上げをけん引した結果と考えられます。その影響がマンションなどの住宅価格にも飛び火し、もはや都心は住めない場所と化し、行き場を失った需要は東京近郊にも広がりを見せています。
東北では、山形県が4年ぶりにマイナスに転じ、他の5県でも上昇幅が縮小しました。変動率が最も高かったのは宮城県の3.3%でしたが、都道府県別の上昇率では昨年の4位から9位に後退しています。東北の税務署別最高路線価は70年連続で仙台市青葉区中央1丁目(旧さくら野百貨店跡)の青葉通りが1㎡あたり374万円となっていますが、変動率は1.1%に留まりました。これは再開発の遅れに加え、地価の頭打ち感と基調の変化を表すものとも考えることができます。
路線価自体は、相続税や贈与税の算出基準として定められているもので、一般の土地取引の公的指標とされる公示地価の80%程度に設定されており、ほぼこれに連動しています。昨今の傾向を見ると、再開発やインバウンドによる観光の盛り上がりが地価を押し上げ、都市部の駅前開発やリゾート地が高い上昇を示してきました。一方で、ロシアによるウクライナ侵攻以降、世界的インフレと円安を受け我が国では輸入物価の高騰が続き、建設資材高騰と国内の労働者不足や働き方改革による労働時間の制約が建築費を一層押し上げ、今や地価圧迫の引き金になりつつあります。東京都心では、マンション価格の高騰やビル賃料の上昇が話題となっていることは周知の通りですが、これらを吸収するには企業収益による賃金上昇に頼らざるを得ません。しかしながら、加速度的に進むインフレに市場が追いついていない印象を受けます。事業採算が合わず都心の再開発がストップするほどの窮状が散見される中、経済規模に劣る地方になるほど事態は深刻で、旧態依然とした補助金頼みの街づくりにも限界が感じられます。
そして、地価上昇で見逃せないのが相続税です。国税庁のデータによると2015年の相続税改正前の相続税課税割合は4.4%でしたが、今や課税割合は10.4%にまで上昇し、実に10人に1人が課税対象者となっています。この割合は都市部ほど高く、最も高い東京都では18.9%に達し、課税対象者は実に5、6人に1人にのぼります。課税対象者の増加は、前述の改正による基礎控除引き下げと地価高騰に比例します。課税資産内訳における不動産の割合は4割程度とされていますが、不動産は時価では評価されませんので、実際の資産に占める割合は更に高いものと考えられます。データが示す通り、都内にそれなりの住宅を所有しているだけで相続の課税対象となる時代です。もちろん、小規模宅地の特例等の軽減措置もありますが、子世代が維持できずに納税資金確保のために売却を選択するケースも少なくないでしょう。とは言え、数十年前に開発された住宅地の面積と現在価値による需要には乖離があるため、分割された宅地が街の表情を変えて行くのも時代の流れと言えます。
加えて、一昨年の税改正により、マンションの評価と時価との価格差を利用したタワマン節税にもメスが入ったことは記憶に新しいところです。改正では、論理上の市場価格の60%を基準とする新ルールが定められた為、資産圧縮効果は大幅に縮小しました。そして、今年度の税制改正では貸付用不動産に限り、相続発生から5年間遡って取得価格を評価の基準とする通達があり、更に今秋には、再来年を目途に非上場株式の相続税評価を見直す方針が示されようとしています。何れも、税の公正・適正との大義のもと、資産家への影響は不可避であり、食品消費税ゼロの大風呂敷を広げた裏で着実に富裕層をターゲットとした増税の足音が近づいています。
資産家の方にとっての相続、事業継承は即効性ではなく、長い準備期間が必要であり、かねてから説かれてきた通り、納税資金の確保やバランスのとれた資産形成と対策が益々求められようとしています。
