2025年10月 vol.287

2025年10月10日

 移ろいゆく季節は実りの秋を迎えました。皆様の地域では中秋の名月を眺めることはできたでしょうか。

 

 さて、9月16日に7月1日時点における全国の地価調査いわゆる基準地価が発表されました。この結果によると、全国の住宅地・商業地等の全用途の平均値は前年比で1.5%上昇しました。上昇は4年連続で特に大都市圏での上昇幅が拡大しています。物価高による庶民の懐事情をよそに株価と不動産価格が突出する状況に、専門家や業界関係者からも過熱気味との懐疑的な意見が多く聞こえてきます。

 

 これまで、住宅市場におけるマンションの独り勝ちの現状について述べてきましたが、仙台のような地方都市ではそろそろ販売価格の天井が見え始め、実需層の予算と販売価格に相当な乖離が生まれ始めていることは周知の事実です。

 

 今や住宅を求める方の殆どはインターネットによって情報収集する時代です。特に新築マンションではホームページの専用サイトにエントリーしないと優先的に情報を得ることができません。そして、モデルルームや完成現場などを見学し物件の特性を知るわけですが、同時に周辺相場をインプットされることになります。最近では、建築後1年以上を経過した完成在庫が新築当初よりも速いペースで成約に至っているケースを耳にします。在庫というと値下げを連想される方も多いと思いますが、物件によっては値下げどころか新築当初より高い新価格で販売されることも珍しくありません。要因として、より高額な新規物件の登場で、当初苦戦し販売が長期化した物件に割安感が生じ、過熱したマーケットの受け皿になっていることが挙げられます。裏を返せば、それほど相場の上昇が急激で、相場を知った消費者の妥協や駆け込み需要が思わぬ副産物を生んでいると言えます。

 

 供給側は開発プロジェクトにおいて、用地取得時、着工あるいは完成まで幾度も建築費上昇による計画の見直しを迫られます。当然のことながら、販売価格への転嫁無しでは利益を確保できなくなりますので、当面の新築マンションはコスト転嫁のし易いプレミアム感の高い「都心・駅近・大規模タワー」の供給が集中し、マンション全体の平均価格を押し上げることが予想されます。

 

 一方、今後の利上げ観測が強まる中、住宅市場への影響は少なくないと考えられます。政府が掲げたデフレ脱却のもと円安が進行し、皮肉にもわずか数年の間に急速な物価高を招く結果となりました。確かに他の先進国と比較すれば日本の不動産は割安であることに間違いはありませんが、実質賃金が上昇しない限り今後の賃料上昇は見込めません。これに利上げが伴えば、不動産投資に対する期待利回りが上昇する分、外国人から見た日本の不動産価値は決して割安とは言えなくなります。近年の「半住半投」需要の高まりがマンション相場を押し上げてきただけに、投資利回りとの関連性は無視できないのです。

 

 賃料に関しては、何通りかの見立てがあります。一つ目は、都内の不動産価格高騰を受けて、富裕層の中でも購入に慎重な層が比較的高額帯の賃貸を求めるケースです。しかしながら、地方都市では高額帯の空室が賃料の限界を露呈しつつあります。加えて、人口がピークアウトに突入する中、大量供給による都市部こそ需給バランスの変化にも注視が必要でしょう。

 

 二つ目は、物価高騰による引越し控えです。入居時の初期費用や引っ越しに伴うコスト、そして賃料の上昇が障壁となっています。築古でも利便性と賃料のバランスに優れた物件が選ばれ、逆に築浅でも特徴に乏しい物件は苦戦を強いられています。こうした状況が巡り巡って投資利回りを圧迫し不動産価格にも影響を及ぼします。改善を試みようにも賃貸借契約中の条件変更には借家法による賃借人の権利が強く、賃料交渉や解約手続きには高いハードルがあります。このため、土地建物を純粋に評価して求める積算価格と利回りから算出する収益還元価格との整合性が取れず、理論上は適正価格であったとしても、収益性が悪い物件は流動性が良くありません。今後の期待利回り上昇がもたらす相場への影響は少なくないと考えます。