2025年4月 vol.281
2025年04月10日
頬を打つ春風に誘われるかのように桜の蕾もほころび、仙台では昨年より2日遅い開花を迎えました。満開の桜の下、初々しい装いの新社会人や新入学の親子連れの姿が微笑ましく映ります。
さて、世界中を混乱の渦に巻き込んだトランプ関税の発動により、世界経済への影響が懸念されます。トランプ大統領の根底には、関税により自国の貿易赤字を解消させ、製造業の国内回帰が雇用を創出しアメリカを再び偉大な国に導くという発想があるようです。しかし、相互関税の税率はこれまで構築されてきた各国との外交関係などを無視したものに等しく、計算式の根拠が単純なのか複雑なのか意味不明なものと国内外から酷評されています。関係各国は置かれている立場により対応も様々のようですが、対立する中国は即座に対抗措置を表明しました。報復措置の応酬と利害や思惑が交錯し早くも世界貿易戦争の様相を呈してきました。想定以上の最悪シナリオに世界の投資家の間に動揺が広がり、世界の株式市場は一瞬にして負の連鎖に陥ったのです。
我が国の対米輸出で真っ先に思い浮かぶのが自動車産業ですが、すそ野の広い業界だけに関連する国内企業への影響は必至と言えます。自動車輸出のうち対米比率は3分の1を占め、シンクタンクによると、今回の自動車関税の発動で我が国のGDPを0.7%押し下げるとの試算が示されています。関税率を為替の変動リスクに置き換えれば、そこまで悲観するレベルではない一方で、トランプ関税には緻密とも捉えられる部分も見え隠れします。日本企業は近年、米中対立構造からのリスクヘッジや製造コスト削減の観点などから海外の生産拠点を中国から東南アジアなどにシフトしてきました。その供給網を突く格好で、米国は今回、東南アジア諸国にも高い関税を課してきました。他国で部品が組み立てられた製品の多くは完成品として米国へ輸出されていますので、間接的に我が国の輸出企業の多くは対米依存度が高いと言えます。したがって、関税は数値が示す以上に日本国内への影響は大きく、根っこが深い分、対米関係や特定の産業だけの問題にとどまらないことは明白です。
これを受け、もともと経済に敏感と言われる日本の株式市場は予想以上に悲観的な反応を示し、今のところ底が見えない状況です。天然ガスや農産物の多くを米国からの輸入に依存し、国防までも米国の傘の下で守られる我が国にとって、難しい交渉が待ち受けていることは言うまでもありません。
今回の相互関税では米国内においても、国外からの調達比率の高い製造業ほど関税コスト上昇で収益率が悪化すると指摘されています。多くのパーツを国外に依存し米国内で生産される自動車などはその代表的例で、これを警戒するように株価も下落しました。コスト上昇による価格転嫁が進めば米国内での消費減速は不可避で、更なるインフレにより米国経済が失速するようなことがあれば、世界経済へ与えるインパクトは計り知れないものになると考えられています。
今回の事態以前に、そもそも我が国の国民一人当たりのGDPは世界38位、国民の所得も他の先進国から大きく水をあけられていました。輸入インフレとも言うべき外的要因が諸物価押上げ圧力となり、我々国民は地方ほど割を食わされていると言えます。トランプ関税の影響が長期化するようなことがあれば、政府の要請で大企業が呼応する形で始まった賃上げムードも、中小零細企業に波及する前に来期以降は一段と不透明さを増しそうです。
これまで何度も述べて参りましたが、アベノミクスにより我が国の経済をけん引してきたのは、円安・株高・不動産などの資産インフレの恩恵を受けた富裕層にあると断言できます。しかし、トランプ関税はその方程式を完全に逆回転させようとしています。富裕層のマインドは確実に冷え込み、不動産や高額商品などの内需にも暗い影を落とすことは間違いありません。特に大都市圏の高額不動産は外国人が下支えしてきた側面もありますので、世界経済の落ち込みが現実のものとなれば外国人投資家の意識にも変化をもたらすものと不安視されます。