2025年2月 vol.279

2025年02月10日

 経済アナリストの森永卓郎さんがご逝去されました。マックスホーム10周年記念イベントの際に講師を快諾頂き、門出に花を添えて頂いたことが思い起こされます。ここに謹んで故人のご冥福をお祈り致します。

 

 さて、皆様もご存じの通り建築費高騰が止まりません。特に地方都市の再開発事業などは、高騰のあおりを受け軒並み計画変更や延期を余儀なくされています。残念ながら、仙台市内の市街地再開事業も例外ではありません。大きな要因として挙げられるのが、労働力不足と労務管理問題、更に資材高騰の影響で建築費は当面下がらないというのが通説であり、異論をはさむ余地はありません。ウクライナ侵攻が発端となり原油価格や資源価格が上昇したことは記憶に新しいところですが、建築への影響は部材の製造コストから輸送コストに至るまでコストプッシュはとどまるところを知りません。仮にウクライナ侵攻が終結したところで、次に待ち受けるのが戦災復興特需による空前の建設インフラ投資ですので、我が国は資材調達において海外勢に買い負ける可能性があります。しかも、これは建築分野に限ったことではありません。多くの資源を海外に依存する以上、この物価高に歯止めをかけることは困難です。おそらく、他の先進国ではウクライナ侵攻以前に緩やかなインフレ下にあったと思われますが、我が国の場合は長らくデフレが続いたため、急激な物価上昇は青天の霹靂と言えます。この窮状は、政府がデフレ脱却という御旗を掲げた理想とは程遠く、皮肉にも円安誘導と地政学的要因が重なり想定外の輸入インフレを招いたと言っても過言ではありません。

 

 首相は、一人一人が主導する「楽しい日本」を目指すと宣言しましたが、今の社会はお世辞にも楽しい国とは言い難いものがあります。戦後、高度成長を経てバブル経済を経験した我が国は、一億総中流社会を誰もが疑いませんでした。国民皆保険や日本津々浦々にわたる社会インフラ網など、国民全体が均等に政策の恩恵を受け、皆自らを中流に属すると確信していたはずです。しかし、バブル崩壊後、我が国を襲った金融不動産危機と円高株安に象徴されるデフレスパイラルにより、かつての輝きと自信は失われました。起死回生を図った円安株高へのシフトは、結果として超富裕層を生み出した一方で、貧富の格差を一層広げたと言えます。そして今、人口減少が拍車をかけるかのように地方と都市部との格差を生んでいます。世の中にまん延する空気感こそが、コンプライアンスに対し過剰反応を起こし、風評や憶測で少々のミスさえも許容しない、躓いた者へ集中砲火を浴びせ奈落の底へ葬り去ってしまうような生きづらい社会に貶めた正体のように思えてなりません。

 

 3月には地価公示が公表されますので、詳しい解説は次回以降に譲りますが、地価は需給関係で成立し相場が形成されていることは言うまでもありません。前述の我が国の現状が富の集中を呼び、都市部の地価上昇は必然の流れとなりました。一方で、これ以上の建築費高騰は地価を押し下げる要因にもなり得ます。再開発に代表される大規模投資のみならず、小規模な民間投資でさえも計画を見直す動きが出始めています。それは、賃料の頭打ち感やテナントリーシングに苦慮する地方ほど顕著です。

 

 不動産価格高騰と実質賃金のマイナスが続く中、住宅購入意欲は冷え込みつつあります。小出しの金利上昇は駆け込み需要を呼ぶほどのインパクトに乏しく、アフォーダブル住宅の投入などテコ入れは急務です。住宅市場はここ一年で状況が暗転しました。一部に回復の兆しを示唆する声も聞かれますが、それは落ち込んだ需要の反動による一時的回復に過ぎず、決して底堅いとは言えない状況です。

 

 その環境下においても都市部のマンションが比較的好調に推移しているのは何故でしょうか?地価や建築費を鑑みれば、今後供給される新築マンションは更なる価格上昇が予想され、多少の在庫も体力のあるデベロッパーが時間をかけて販売することで、むしろ販売当初より高値で売り抜ける勝算すらあるのです。当然、先行取得者の資産性も維持できます。一方、長年にわたる新築重視政策の代償か、中古家屋に対する市場の評価は未だ低調で、資産性という点においてマンションに水をあけられています。住宅すご六と謳われた憧れの一戸建ても、社会や家族構成の変化に伴い今やゴールではなくなりつつあります。このような背景もあり、立地や資産性に優れるマンションが支持されるのだと思います。掘り下げた話の続きは次回までお待ち下さい。