2024年4月 vol.269

2024年04月10日

 新年度のスタートを祝うかのように青空が広がり、足踏み状態だった桜の蕾も一気に咲き進み、いよいよ春本番を迎えました。

 

 さて、今号では恒例の公示地価の話題から始めたいと思います。3月26日に国土交通省が発表した1月1日時点の公示地価は、東北6県全ての住宅地で実に33年ぶりにプラスとなりました。理由として、新型コロナウイルスの5類移行に伴い景気が緩やかに回復し、地方へも地価上昇の余波が広がったことなどが挙げられます。特徴的なのは、インバウンドの回復、公共インフラ整備、再開発、熊本や千歳に代表される工場立地です。沖縄県、福岡県に次いで全国3位の上昇率を示し12年連続のプラスを記録した宮城県では、仙台市とその周辺自治体の住宅需要が堅調で、富谷市と大和町が上昇率において仙台市を上回りました。更に、半導体工場の進出計画で周囲の期待値も高まっており、仙台市よりも割安感のある周辺自治体へ需要が広がった結果との見方が示されました。そして、本年は3年に一度の固定資産税評価の評価替えの年度に当たります。12年連続地価上昇地点では、段階的に評価額に反映され、事業用不動産をご所有の方は増税を実感しているはずです。

 

 では、この高値相場でも不動産が売れ続けているのは何故なのでしょうか?一因として急激に進んだインフレで資産価値に対する意識の変化が挙げられます。特に一戸建てよりもマンションの売れ行きが好調なのは、利便性の良いマンションに資産性を求める傾向が強く、円安や低金利を背景に国内外の富裕層やパワーカップルを軸に支持を集めています。また、昨今の高値相場に応えるかのように40年、50年といった長期住宅ローン商品の登場が若年層の購買欲を掘り起こした点も特筆すべきです。

 

 一方、違う側面から見ると、アパートなどの共同住宅向け事業性ローンでは、各行が利上げにシフトする動きも見受けられます。アパート建築というと、従来は地主や企業の遊休地活用が主流でしたが、今や事業主の大半が土地を購入し新築するランドセットや建売が中心です。投資熱は、大都市圏から地方都市、更にリゾートへ、富裕層から庶民へと拡大しバブル期の投資ブームが思い起こされます。投資家が目安とするのが投資対効果つまり期待利回り(利益÷不動産価格)です。最近の不動産用語でいうところのキャップレートなるものですが、資産性や需給関係もありますので、一般的に期待利回りは都市部よりも地方の方が高くなる傾向にあります。期待利回りが低いということは、不動産市況が活況であることを意味し、地価と建築費の高騰が投資家の間で織り込まれ売り手市場であることを示唆しています。理想は、これを補うだけの収益性を確保できれば良いのですが、地方ほど賃料の頭打ち感があります。

 

 中古市場も建築費高騰で既存建物の価値が再評価され、同様に取引利回りは期待利回りを下回っています。私の拙い相場観ですが、仙台圏の現状はアパートなどの共同住宅の実取引利回りは、ランドセットの新築で4%~5%、中古で6%~7%が目安でその中央値が建売の利回りではないかと思います。今や自前の遊休地を活用したとしても建築費高騰のあおりを受け、利回り10%には遠く及びません。コロナ禍以降は、より市場が過熱気味で1ポイント程取引利回りが下落した印象を受けます。但し、今後は長期金利の上昇は不可避であり、期待利回りも連動し上昇することが予想されます。直近ではその警戒感からか強気一辺倒の相場にも少しずつ変化が見られ、供給側の利益確保を急ぐ動きと買手側の期待利回り上昇で、この先の市場を睨んだ双方の思惑が交錯している印象を受けます。今後も建築費は物理的に下がる要素が少ないため、利回りを確保しようとする動きから都市部ほど賃料の値上げ圧力が強まる可能性があります。悲観的に考えれば、不動産価格が調整局面に突入するというシナリオも否定できません。

 

 デフレのカンフル剤とされた異次元の金融緩和政策は不動産市場に大きな恩恵をもたらしたと言えます。株価同様に経済の先行指数とされる不動産価格ですが、足元の実体経済はまだまだ弱く、急激な物価上昇に対し実質賃金が追い付いていない状況です。経済の転換期を迎え、大きな副作用が待ち受けているような気がしてなりません。