2024年3月 vol.268

2024年03月08日

 寒の戻りでしょうか、荒天が続いておりますが、3月の仙台での積雪は2年ぶりとなるそうです。


 さて、日経平均株価は史上最高値を34年ぶりに更新しました。局所的には正に失われた30年からの脱却と言えそうですが、実態経済はどうなのでしょうか?現実は、新型コロナのパンデミックを契機に、世界的な金融緩和により派生した投資マネーが、世界の金融不動産市場に流れ込み極端なインフレを誘導した結果と言えます。30年もの間デフレが続いた日本のマーケットは、急速に進んだ欧米諸国のインフレと比較し出遅れ感は否めず、皮肉にも、その割安な株式と不動産に注目が集まったと考えることができます。それに拍車をかけたのが、円安と中国経済の先行き不透明感による大量の資金シフトと見られています。今、世界で起きているのは明らかな貧富の格差拡大です。ようやく、デフレの出口が見えつつある我が国においては、物価上昇に賃金が追いつかず実質賃金はマイナスです。大企業は輸出企業を中心に為替差益の恩恵を受け好決算が予想されますが、大企業の占める割合は企業全体の僅か0.3%、労働者のおよそ7割が中小企業従事者です。政府や経済界は賃上げに意欲的ですが、中小零細企業への波及効果は限定的で、むしろ物価高の渦中において消費へ悪影響が及ぶことが懸念されます。


 私は、我が国における局所的バブルは東日本大震災がターニングポイントだったと見ています。震災特需により、宮城仙台の地価や物価が高騰しましたが、地方が地価上昇をけん引したのは前例のないことです。ほどなくして、アベノミクスによる金融緩和が長らく低迷を続けた金融不動産市場に大きな変化をもたらしました。結果として「円安、株高、不動産高」このカテゴリーに属した人々だけが恩恵を受けたといっても過言ではないでしょう。実は、その恩恵を一番受けたのが日本政府そのものだと考えることはできないでしょうか?企業業績の回復により法人税は過去最高、物価高で消費税も上昇、地価上昇で相続税も増収、地方税収の多くを占める固定資産税も同様です。また、新NISAにより資金が株式市場に流入すれば株式市場が盛り上がり年金の運用にも有利に作用します。もちろん、各流通課税も期待できます。更には、実質賃金マイナスなどお構いなしに賃金上昇で所得税も増収となります。


 この間、「貯蓄のない世帯が3割」、「子供の貧困が10人に1人」のデータが物語る実態経済との乖離をよそに、富める者は益々資産を増やし超富裕層が倍増したことは、格差社会の象徴とも言えます。戦後の高度成長は経済を押し上げ、人口も右肩上がりで誰もがその恩恵を享受することができました。しかし、一億総中流社会が過去の出来事となった今、格差という課題にどう向き合うか政策の転換が急がれます。

 

 それにしても、相場の世界とは不思議なものです。日常の買い物であれば、特売のタイミングを狙うのが常というものですが、株や不動産になるとそうとも限りません。相場が下降線の時には更に下がるのではないかという恐怖心が働き、逃げ遅れないようにと損切りをします。一方、相場が上昇基調にあるときは、出遅れないようにとの心理からとっさに手を出してしまいがちです。そして、時として周囲の成功が適正な判断を狂わせるのです。それでは、経済のサイクルの中で何故バブルが起きるのでしょうか?一説には過去の経験が置き去りにされてしまうとの見方があります。日本の社長の平均年齢は63.76歳、あと20年後も現役を続けている方は多くないと思います。仮に20年後に社長に就任した方は、現在のバブルを最前線で経験していないため、20年~30年の周期で同じことを繰り返すと考えられているのです。もちろん、我が国の失われた30年間を考えた場合、この間の経済停滞は他の先進諸国と比較しても激安相場と言えたのですから、安易にバブルという表現は不適切かもしれません。むしろ、昨今の高値相場は限定的な人たちの舞台であると考えた方が自然かもしれません。例えば、都内のマンションの平均価格1億円超えは記憶に新しいニュースです。平均値を押し上げているのは、一部の高額マンションに過ぎません。しかも、それを買い支えているのは外国人と富裕層です。一戸建てに比べマンション販売が好調なのは、供給量が少ないことに加え富裕層の投資対象になり易いからです。日経平均株価を押し上げているのも実態は一部の値嵩株です。


 市場では、日銀が利上げのタイミングを計っているとの観測が囁かれていますが、失策や地政学的要因により極端な円高が誘発されない限り、株価と地価(都市部)は、あと少しの間高値相場で推移すると見るのが賢明ではないでしょうか。