2023年10月 vol.263

2023年10月10日

 中秋の名月とは太陰太陽暦の8月15日を指すそうですが、今年は満月と重なりました。皆様の地域ではきれいにご覧頂けたでしょうか?月夜を眺めながら秋の気配を感じる季節となりましたが、風邪などひかぬようご自愛下さい。

 

 さて、9月19日に国土交通省が7月1日時点の基準地価を発表しました。基準地価は、春の地価公示価格を補完するための指標ですので、今夏に発表された路線価とは意味合いが異なります。これらの公的地価は、1年程度前のデータをまとめたものであり、春の地価公示をベースに形成されているものです。したがって、一年に2回も3回も地価が上昇したという見方は誤りです。今回は、住宅地では全国平均で0.7%上昇、三大都市圏は2.2%の上昇となり、仙台を含む地方四市は7.5%の上昇を示しました。宮城県では、全用途平均が2.3%の上昇、住宅地が全国8位、商業地は6位を示しましたが、何れも仙台圏が上昇をけん引したことは言うまでもありません。特に住宅地の上昇率では名取市、富谷市の伸びが仙台市を上回り、子育て支援や商業施設の充実などが住宅需要を旺盛にしていると考えられます。一方で、仙台市内の過剰なまでの地価上昇による余波が、郊外へのドーナツ化現象を誘引しているとの見方もできるのではないでしょうか。

 

 これだけ地価上昇が報道されると、一般ユーザーにも土地高が浸透しています。当然のことながら、売り手市場ということになりますが、近年ではポータルサイトによる一括査定が複数の不動産業者を競合させ高額査定を誘引しています。不動産業者泣かせなのが、これまでの高値相場による取引事例の存在です。査定の際には必ず参考にしますが、市場の変化を見極めないと誤った提案をしてしまう可能性があります。当然のことながら、相場は市場の需給関係に左右されるわけですが、期待値だけで理由に乏しく高値の付いた物件の在庫が増えてきた印象を受けます。そして、住宅各社が競うように高値で土地を仕入れてきた流れにも陰りが見られ、これまでエンドユーザーまで届かなかった物件情報も徐々に流通し始めているのです。また、在庫の回転を高めるために、土地の建築条件を外すなど販売条件を見直す事業者の動きも見受けられます。

 

 仙台のような地方都市圏は、元々所得水準が高くはなく、都市のポテンシャル以上に地価が高騰した結果、所得と不動産価格との乖離が大都市圏以上に膨らんだとの見方があります。最近では、原油高、円安、猛暑など様々な要因が重なり、我が国の物価高は悪い方向へ向かっています。良くて微増に過ぎない賃金の上昇では、実質賃金は完全なマイナスです。このような外部環境も住宅取得マインドの押し下げ圧力につながっていると言えます。

 

 新築マンションの販売は表向き好調です。おそらくは、一戸建て住宅よりも利便性や資産性を求め、マンションに流れる傾向が強いのだと考えられます。特に中心部や人気エリアなどにはまとまったマンション適地が少なく、供給量が少ないことも理由の一つに挙げることができます。土地仕入れや建築費等のコスト積み上げ方式によるマンション価格は、今のところ落ち着くところを知りません。少なくともこれから供給されるマンションの多くは昨今の土地高の中で仕入れが行われており、建築費は当面高止まりどころか、働き方改革や職人不足により上昇すると見た方が賢明です。各社は、専有面積を削り仕様設備にメリハリをつけコストダウンを図るなど対応に追われています。これにより、将来は年式によりマンションが評価される時代が来るのではないかと思います。好立地の中古マンション相場が高止まりの理由もここにあります。新築は、中心部が富裕層や外国人などの投資対象となり、実需のファミリー層は郊外へという図式が鮮明になりつつあります。

 

 前述のように住宅市場とは明暗を分けますが、事業用不動産はもう少し活況が続くのではないかと見ています。特に物流などの業務用不動産、ビルやレジデンスなどの投資用不動産は底堅い需要があります。