2023年7月 Vol.260

2023年07月10日

 梅雨明けが待ち遠しい今日この頃ですが、九州地方を中心に豪雨災害が報告されています。被災地の一日も早い復旧をお祈り致します。

 

 さて、7月3日に相続税・贈与税などの基準となる路線価が公表されました。調査地点約31万6千個所からなる路線価の全国平均は、2年連続での上昇を示し上昇幅も拡大するなど、コロナ禍からの回復が鮮明となりました。国税庁は、上昇の背景にコロナ明けの商業活動が活発になったことや、インバウンド需要の高まりがあるとしています。路線価のベースは地価公示価格にあるわけですから、3月の地価公示とほぼ連動します。地価公示を100とした場合、路線価は80に設定されていることをおさらいしておきます。

 

 都道府県別の平均では、25の都道府県が去年を上回っており、最も上げ幅が大きかったのが北海道(6.8%)、次いで福岡県(4.5%)、宮城県(4.4%)の順となります。お気づきの通り、地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)を抱える道県が上位となりました。そして、今更言うまでもありませんが、全国で最も高い地点は38年連続で東京都中央区銀座5丁目中央通りの鳩居堂前(4272万円/㎡)、東北のトップは仙台市青葉区中央1丁目青葉通りの旧さくらの百貨店前(347万円/㎡)となっています。

 

 一方で、昨年を下回った県は、一昨年の27県から20県に減少し、横ばいが2県という結果です。下落率ワーストは、和歌山県、福井県、愛媛県の順となっています。我が宮城県は、前述の通り全国3位の上昇で、震災から数えること11年連続の上昇を示しました。この間に3年ごとの固定資産評価の評価替え(次回は令和6年度)が実施されており、税負担が大きくなっていることを実感されている方も多いと思います。特に軽減の無い更地や事業用不動産の税負担は顕著と思われます。

 

 仙台のような地方都市が高い上昇率を示している理由の背景について、専門家は次のような要因を挙げています。東京などの大都市圏は地価が高過ぎるため、総額において比較的割安感のある地方都市に投資ファンドや富裕層などの中央の資金が流れ込んでいるとの見方があります。更に、2024年問題に代表されるように、物流業界では働き方改革に伴う諸問題の解消が急務で、地方が物流の中継点に選ばれていることも注目すべき点です。倉庫業においては、大都市圏の地価と現在の建築費では採算が見込めず、道路網が整備された地方都市の郊外に需要がシフトしつつあると考えられます。もちろん、採算性だけではありません。資産性を考慮した場合、都市の持つ将来性は重要な判断要素になります。そういう意味においても、地方における一極集中を見据えれば、特に地方4市が有力視されることは誰の目にも明白と言えます。もちろん、懸念される点もあります。大都市圏は空前の再開発ラッシュを迎えています。ここ1、2年の供給量は低水準で推移していますので異論も多いと思いますが、既存ビルの空室に加え、今後供給予定の大規模プロジェクトを見渡せば楽観はできません。大阪や名古屋も同様と聞きますが、東京都内のオフィスビルでさえ空室が目立ちはじめています。都内の大規模開発を挙げれば、渋谷、麻布台、品川、東京駅周辺など目白押しです。テナントの新規需要にも限界があり、水面下では周辺ビルからの移転や引き抜き合戦が繰り広げられていると言えます。加えて、コロナをきっかけに在宅勤務やリモートワークなどが定着し、多くの企業は家賃の高い都心オフィスの統廃合などの合理化を進めています。需給バランスによる賃料相場の値崩れ、これらが大都市圏のオフィス街の地価上昇の回復を鈍らせている一因と説くことができます。ことさら、市場規模の小さい地方都市の場合、需給バランスが一度崩壊すると事態は深刻化する恐れがあります。

 

 もう一点、路線価に関連性の高いことで注目されるのが、タワマン節税をめぐる相続税算定ルールの見直しです。過去に変更が加えられたものの形骸化が指摘されており、国税庁は見直しに向け本腰を入れ、早ければ来年からの新ルール適用を目指しているようです。本件に関しては、評価と実勢価格との乖離に節税のメリットがあり、不動産仲介大手なども購入による資産圧縮率効果(節税)を前面に出し富裕層の潜在需要を掘り起こしてきた経緯があります。見直し報道と同時に大手デベロッパーの株価が下落するなど、業界にも震撼が走りました。詳しくは次号で解説したいと思います。