2023年6月 vol.259

2023年06月09日

 南から梅雨空が日本列島を覆い始めております。時には心を静め雨に濡れる新緑を眺めてみるのも風情があるものです。しかし、それが大雨ともなれば話は別です。線状降水帯による豪雨被害が広いエリアで報告されており、被災地の一日も早い復旧をお祈り致します。

 

 さて、この6月も食料品など多くの品目で値上げが実施されました。家庭向け電力規制料金も値上げされることが発表されており、更に家計を逼迫しようとしています。以前、このコラムでもコロナ禍による巣ごもり特需の追い風を受け、住宅需要が高まったことに触れました。住宅各社もリモートワークに対応するべく、書斎コーナーやマンション共用部にワーキングスペースを設けるなど、新しい生活スタイルを提案し需要を喚起してきました。盛り上がりの背景には、コロナで接待や行事など社会活動が減り、プライベートでも旅行など外出の機会が減った分、家計に余裕が生まれたことや、家庭内でのプライバシーの確保や通勤時間にリモートワークなど勤務形態の変化が少なからず住宅需要に流れたと考えることができます。

 

 コロナによる制限が解除された今、旅行客が戻り、飲食店にも活気が戻りつつあります。日経平均株価はバブル崩壊後の最高値を更新しています。不動産市場は都市部を中心に地価の上昇を示し、その余波は地方にも波及しはじめています。しかし、実際はどうなのでしょうか?

 

 社会活動自粛の中で家族時間の変化が、個人の高級志向へと流れたことで、外食も高級店を中心に人気を集めていると耳目にします。価格訴求型のお店も堅調である一方、中価格帯のお店が苦戦を強いられている印象を受けます。また、経済交流の機会も増え、会合などの一次会需要は回復傾向にあるものの、二次会以降に関してはまだまだシビアで、接待中心のお店の回復にはもう少し時間を要しそうです。

 

 説明するまでもなく、不動産も高額帯の物件を中心に需要が旺盛です。最近、都内で話題に上ったのが、22年度の23区内の新築マンション平均販売価格が更新されたというニュースです。近年、都内ではマンション用地が枯渇気味で供給量が減少傾向にあります。理由としては、既に都心では市街地が形成されており遊休地が少なくマンション適地が極端に少なくなったことや、適地が売り出されたところで、ホテルや商業系ビルなどに競り負ける状況が続いたことが挙げられます。結果、建築費高騰と相まって原価積み上げ方式のマンションは価格が跳ね上がり、庶民にとって高嶺の花と化したのです。

 

 それでも、ここは首都東京です。富裕層は青天井と言えるほど数多存在します。東京の不動産は他の先進国などと比べ割安感があると目されていることから外国人投資家も競うように買いに走っています。実は、先ほどのマンション価格更新にはからくりがあるようで、平均価格9899万円(不動産経済研究所調べ)に押し上げた要因は、三田ガーデンヒルズ(平均価格4億円・400戸)、ワールドタワーレジデンス(平均価格2.5億円・169戸)の2物件にあると言われています。更に今後分譲される前者の最上位住戸は、これまでオフィシャルで販売されたマンションの最高値である55億円をはるかに超えるプライスが付けられるとの憶測が業界内で囁かれています。しかし、これはあくまでも一部の階層の雲上の話であります。実態はというと、首都圏といえども割安感のある郊外の一戸建てに客層が流れる現実と、同様に新築に誘引され価格が上昇した中古マンションは在庫数の増加が窺えます。他方では、過熱する市場を静観する動きも見られ、購入を見送る客層が高級賃貸需要を押し上げているとの見方もあります。

 

 規模こそ異なりますが、仙台市内でも同様の動きが見られます。高級住宅地や希少な商業立地の需要は旺盛で、地価の高止まりというよりは更にその一段上の金額で取引されていることも珍しくありません。しかしながら、その多くが法人や富裕層を中心とした需要であり、さすがに、昨今の地価高騰と建築費高騰が中間層の購入意欲のハードルとなっていることは否定できません。大都市圏と比較し、層の薄い地方都市では不動産価格に所得が追い付いていない現実があります。マクロ的に俯瞰すると、需給バランスの変化が市場に与える影響が懸念されます。