2019年11月 vol.216

2019年11月10日

  台風に見舞われたこれまでの荒天が嘘のような秋晴れが続いております。先だっての台風19号により被災された皆様には心よりお見舞いを申し上げます。被災地という報道を耳目にするたび、どの地域のことを指すのか混乱するほど今回の被害は広範囲でした。また、報道では堤防の決壊など河川の氾濫被害がクローズアップされがちですが、道路の冠水により局地的に大きな被害を受けたエリアも少なくありません。今になって宮城県内でも至るところから被害の知らせが届いております。他の災害により復興半ばの地域も含めると全国至るところに被災地が点在することは非常に残念なことです。
 

  不動産取引では法改正のたびに説明項目が追加され、年々書類が増え続けておりますが、災害に関連する項目も同様と言えます。不動産取引の際に説明が義務付けられている重要事項説明書では、定型の説明項目に該当が無い場合においてもお客様にとって重要な事項は、当然不動産業者が伝える責任を負わなければなりません。最近では、地歴や地震・水害のハザードマップの添付が一般化しつつあり調査も多岐にわたります。地震大国である我が国では、震災が発生するたび法整備が進められて参りました。特に東日本大震災以降は地震への備えなどに対し関心が高まり、一時は内陸高台志向、マンションにおいては低層階に人気が集中した時期もありました。特に土地選びでは地盤の強さに重点が置かれ、建築物も建築基準法により耐震性に重きを置く傾向が強かったと思います。事実、供給側もこぞって耐震性能を磨き安全をアピールしてきました。ところが、それをあざ笑うかのように大自然は牙をむきます。近年の台風や集中豪雨などにより、我々の暮らしの安全は場所を問わず常に脅かされていると言っても過言ではない状況下にあります。これは単に異常気象という言葉で片付けられるものではなく、気候変動と表現するそうですが、もはやこれまでの経験や常識が通用しないレベルと言えます。既に今起きている事象が異常ではなく常態化しつつあるのです。以前にもご紹介した「ファクトフルネス」によると、ほとんどの分野において世界は良い方向に向かっているそうですが、気候だけはどうも例外のようです。
 

  私は歴史学者ではありませんし、そもそも歴史や地理が詳しいわけではありません。しかし、当たり前に考えて人類の歴史は自然災害との戦いだったことに疑いの余地はありません。川の氾濫など幾多の災害に直面する都度、先人たちは力を合わせて生活を再建してきたのでしょう。人々が集落というコミュニティを形成してからは、その地を離れるのではなく、英知を結集し治水対策などによりその地を生かし共生する道を選択してきたのだと思います。それが平野部に形成された今の市街地の原型ということになるのでしょうか。文化財保護法に基づく埋蔵文化財包蔵地といわれる遺跡エリアが全国各地に点在します。文化財級のものを除けばその大半は昔の人々の生活跡です。仙台市のお隣多賀城市に至っては市の面積の約4分の1が土木工事などの際に届出を要する包蔵地とされます。しかし、包蔵地は前回の東日本大震災で津波被害を受けた地域に少なく、ほとんどが内陸部や丘陵地帯に見られます。これは何を意味するかというと、その昔人々は安全な場所を選んでコミュニティを形成していたか、または度重なる災害により生活の痕跡が破壊されたかの何れではないかと推察できます。
 

  皮肉にも東日本大震災による津波浸水エリアは、下水や堤防の整備が進み、今回の豪雨被害を免れた地域も少なくありません。同じエリア内でも整備次第で明暗が分かれた箇所もあったことでしょう。「自助・共助・公助」と言われますが、自助と共助には限界があります。気候変動を教訓に更なる基準値の策定と早急な整備が待たれます。